東京地裁での民事訴訟 – 通常部・専門部・集中部

当法律事務所は多くの訴訟事件に携わっており、その大部分は東京地方裁判所(立川に支部がありますが、霞ヶ関にある本庁を指しています)に係属する事件です。日々事件を扱っている中で感じる東京地裁での民事訴訟の特殊性について少し述べたいと思います。

言うまでもなく、東京地裁は日本最大の地方裁判所です。東京地裁本庁で民事事件を担当する部門は、民事第1部から民事第51部までの51箇部あります。それぞれの部ごと(正確に言えば各部に属する裁判官や裁判合議体ごと)に裁判業務を行っています。51箇部に合計300名弱の裁判官が配置されています。少ないと驚かれますが、そもそも日本の裁判官の総数があまりに少なく、これでも総数の1割弱が東京地裁本庁民事部に配置されていることになります。

通常部、専門部、集中部

東京地裁民事部の最大の特徴は、専門部・集中部の多さです。51の部のうち通常部は32部しかなく、それ以外は特別の役割を担った専門部・集中部です。

専門部は、一定の分野の事件を扱うことを専門とする部で17あります。内訳は、知的財産(4箇部)、行政(4箇部)、労働(3箇部)、交通(1箇部)、調停・借地非訟・建築(1箇部)、商事(1箇部)、破産再生(1箇部)、保全(1箇部)、執行(1箇部)です。

集中部は、通常の事件も扱うけれど、一定の分野の事件を特に集中して扱う部で、医療(2箇部)があります。

なお、歴史的理由から専門部・集中部の部番号はランダムになっています(例えば、知的財産部は29部、40部、46部、47部)。訴訟弁護士でもなかなか全部は覚えられません。

年間どの位の民事事件があるかというと、おおざっぱに言って、東京地裁本庁民事部は年4万~4万5千件ほどの新しい事件(新受事件といいます)を受理しています。その95%以上が訴訟事件です。

専門部、集中部の毎年の新受件数は、知的財産訴訟が300~400件、行政訴訟が500~800件、労働審判・訴訟が合計2000件、交通訴訟が1500~2200件、建築訴訟が400件、医療訴訟が150~200件といったところです。事件数に比べて専門部や集中部の数が多いように感じるかもしれません。しかし、事件の特質に応じた審理を行うことは司法に対する利用者(国民)の信頼を得る上で重要であり、事件の数だけでなく事件の種類を重視することは正しいと思います。

専門部・集中部に係属する事件への対応

専門部・集中部に係属する事件については、その専門分野の知識が必要なことは当たり前ですが、それだけでなく、訴訟手続の進め方や裁判官の姿勢が通常部とはかなり異なっていることが少なくありません。特に東京地裁の専門部・集中部では、思い切った実験的な手続や手法が試みられることもあり、その結果が将来の民事訴訟法などの法律の改正に繋がっていくこともあります。

このような専門部・集中部での事件に、通常部での経験やノウハウだけで臨むというのは無謀です。実際、法廷で審理をたまたま傍聴している際、その専門部でのノウハウをもたないと思われる弁護士さんがしどろもどろになったり、とんちんかんなことを言っている姿を目にすることもあります。

さらに、東京地裁での民事訴訟を扱う上で大事なことは、審理進行や裁判官の姿勢を必要以上に一般化して考えないことだと思います。少なくとも、通常部とそれぞれの専門部・集中部での審理方法や裁判官の姿勢の違いを意識することは大事であり、そのことも踏まえて依頼者の方々には説明をすべきと思います。

例えば、和解協議の場での裁判官の姿勢について言うと、通常部では裁判官ごとの個性に基づくバラツキという印象が強いですが、知的財産部、労働部などの専門部では、裁判官の個性ももちろんあるものの、専門部門ごとの特有の傾向が明らかにあります。一例として、労働部では、労働者個人や経営者への直接的な働きかけや説得をかなり積極的に行っているように感じます(事件の特性、本人訴訟の多さ、労働審判との関係など、様々な背景が考えられます)。こうしたことも踏まえた上で事件をハンドリングしていくことが、東京地裁で訴訟事件を扱う上では重要だと思います。

東京地裁は、2021年を目途にビジネス関係の事件を専門的に扱う「ビジネス裁判所」を中目黒に設けることを予定し、その準備が進められています。このような動きの中で今後、IT紛争専門部など、専門部・集中部がさらに拡充していく可能性もあります。

このように、東京地裁での民事訴訟には「一筋縄ではいかない」奥深さがありますが、様々な通常部、専門部、集中部における審理を比較検討することで民事訴訟の厚いノウハウや技術を得られることが東京地裁の事件を扱う弁護士の喜びでもあります。

弁護士 林 康司