企業法務は組織法務

当事務所は企業法務を主要な業務分野としています。そのため、企業法務とは何かという質問を受けることがありますが、私は「企業法務とは組織法務だと思う」と答えています。

若い弁護士の方には、企業法務は企業がクライアントの案件であり、人間的な煩わしさが少ない案件が多いと考えている方が多いように感じます。しかし、企業がクライアントというのは形式的な話です。現実は、依頼者である企業の中に案件に責任を持つべき担当役員がおり、その下に案件を担当する部署や担当者の方がいます。形式的な依頼者は法人ですが、実際に判断し行動していくのは社内組織に属する生身の人間です。

担当役員や担当者の方々は企業のために判断や行動をしていく訳ですが、それが法令や倫理の観点からどんなに正しいことであろうとも、社内で承認されない判断や行動では企業を現実に動かしていくことはできません。その結果、企業にとっても株主にとってもプラスとなりません。担当役員や担当者の方々は、そうした「組織の論理」の中で当たり前に生きているのであり、企業法務弁護士はそのことを踏まえることが絶対に必要です。

組織を現実に動かしていくということが企業法務の絶対的な使命であり、そのことを担当役員や担当者の方々と共有した上で、外部弁護士としての役割、職責を果たしていくことが企業法務の根幹だと思います。

外部弁護士が、組織の論理を度外視して、自身の理念や倫理観を担当役員や担当者の方々に押しつけても、あるいは、自らの責任回避のためにリスクを並べ立てても、何も実現することはできません。また、「コンプライアンス」とただ強調しても何も変わりません。組織の現実を踏まえて、社内で承認されるコンプライアンスを一歩一歩構築していくことが必須です。

担当役員や担当者の方々を社内で難しい立場に追いやることも問題外です。例えば、それまで何も指摘していなかったのに、後になって急に重要なリスクの話を持ち出すのは、個人クライアントの方であれば丁寧に言い訳や説明をすれば大丈夫かもしれませんが、組織内では担当者を窮地に追い込みかねず、ひいては案件の円滑な進行を妨げかねない行為で、絶対にやってはいけないことの一つです。

外部弁護士にとっての企業法務は、各企業の組織の論理、その中にいる個々の人間を前提とする「組織法務」であり、ある意味、個人クライアント業務よりも深く人間のことを考える必要があると思います。

弁護士 林 康司