改正民法(4月1日施行)はどこから適用されるか(1)

本年(2020年)4月1日から改正民法(新民法)が施行されることは多くの方がご存じだと思います。また、新民法の内容についても書籍やインターネットで豊富に情報提供されていますので、既に承知されている方が多いと思います。

今回は、新民法がどこから適用されるかについて考えてみたいと思います。4月1日に施行されるからといって、4月1日以降、全ての事件や出来事に新民法が適用される訳ではありません。4月1日以降も改正前の現行民法(旧民法)が適用される場合があり、むしろ当面は旧民法が適用される場面が少なくありません。

法律が改正される際には、新法がどのような事件や出来事に適用され、旧法がどのような事件や出来事に適用されるかが定められます。これを経過措置規定といいます。改正民法(民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号))の最後にもこの経過措置を定める附則があります。今回のテーマはこの経過措置で、その中でも、まず契約の関係について説明します。

契約日基準 – 契約締結が2020年4月1日より前か後かが基本

2020年4月1日より前に締結された契約及びこれらの契約に付随する特約には、旧民法が適用されます(附則34条1項)。つまり、契約日が2020年4月1日より前か後かが契約に旧民法・新民法のいずれが適用されるかを分ける基準です。これは、当事者の行為(意思表示、契約)の時を基準とすることによって、新旧どちらの法律が適用されるかについての当事者の予測可能性を確保するという趣旨です。なお、契約日を意図的に「バックデイト」させることについては別の記事(⇒リンク)で説明しましたので、気になる方はご覧いただければと思います。

契約トラブル、つまり債務不履行についても、前提となる契約の締結日がいつかで新民法・旧民法のいずれが適用されるかが決まります。つまり、4月1日より前に締結された契約については旧民法の債務不履行に関する規定が適用され、4月1日以降に締結された契約については新民法の債務不履行に関する規定が適用されます(附則17条1項)。債務不履行の時が基準ではありません。契約解除についても同様です(附則32条)。解除の時ではなく契約日が基準です。

ただし、遅延損害金の法定利率は、契約日基準ではなく、履行遅滞が基準になります。つまり、4月1日より前に履行遅滞となった場合は旧民法が適用されて年5%(商事債権の場合は年6%)となり、4月1日以降に履行遅滞となった場合は新民法が適用されて民事商事とも年3%になります(附則17条3項)。なお、不法行為に基づく損害賠償請求権については、不法行為時に直ちに履行遅滞になると考えられていますので、不法行為が2020年4月1日より前か後かが遅延損害金額を決める基準になります。

例1. 2020年2月に締結された売買契約に関し、納入日に納入がなされないケース

契約締結は2020年4月1日より前ですので、契約についても、その債務不履行についても旧民法が適用されます。

このケースで納入日が2020年3月15日と合意されていた場合は、履行遅滞も2020年4月1日より前に生じているので遅延損害金も旧民法に基づき年5%(商事債権の場合は6%)となります。他方、納入日が2020年4月15日と合意されていた場合は、履行遅滞は2020年4月1日より後に生じているので、遅延損害金は新民法に基づき年3%となります。いずれの場合も、遅延損害金の利率が特に約定されている場合は、約定利率によります。

例2. 2020年2月に賃貸期間2年間でアパートを借り、賃借人の父親が保証人となった場合で、2022年2月に賃貸期間満了で賃貸借が終了したが、原状回復や敷金返還をめぐってトラブルになったケース

賃貸借契約、保証契約(同じ契約書に署名していても契約は2つです)のいずれも2020年4月1日より前に締結されているので、どちらの契約にも旧民法が適用されます。新民法では敷金の規定が新たに設けられましたが(新民法622条の2)、適用されません。旧民法やその解釈論が適用されます。

2020年4月1日以降の更新合意

上で述べたとおり、旧民法・新民法のどちらが適用されるかは、契約日が2020年4月1日より前か後かという契約日基準によります。では、2020年4月1日より前に締結された契約が、2020年4月1日以降に更新された場合はどうなるのでしょうか。

附則は、契約日基準の例外として、新民法604条2項(賃貸借の更新後の存続期間を最長50年間まで認める規定)は、2020年4月1日以後に更新合意がされるときにも適用されると規定しています(附則34条2項)。附則34条2項が、特定の条項について更新合意への適用を特に規定していることから、これを素朴に反対解釈すると、2020年4月1日以後に更新合意がされても、原則として旧民法が適用されるかのように思われます。

しかし、2020年4月1日以後に更新合意がなされる場合、当事者は通常、新民法の適用を予測しているはずですので、むしろ新民法が適用されると考える方がしっくりきます。

法務省も同じ理解で、上の例2で述べた賃貸借契約の例で、更新合意がされた場合の旧民法・新民法の適用について、以下の見解を示しています。
・4月1日以降に賃貸借契約や保証契約について更新合意がなされたときは、当事者はその契約に新民法が適用されることを予測しているため、新民法が適用される。
・4月1日以降に賃貸借契約については更新合意がなされたが、保証契約については更新合意がなされなかった場合、保証契約が賃貸借契約の更新後に発生する債務も保証する趣旨で当初の保証契約が継続している場合には(通常そう解釈されると思われます)、当該保証契約については4月1日後も旧民法が適用される。

つまり、法務省は「当事者が新民法の適用を予測しているか」という基準で判断するとしており、この考えによれば、2020年4月1日以降の更新合意には新民法が基本的に適用されることになります。

なお、新民法では極度額の定めがない個人根保証契約は無効です(465条の2第2項)。このため、上記の法務省見解を前提にすると、更新合意書に賃借人だけでなく保証人も署名等する場合は保証契約に新民法が適用されるので極度額の定めが必要となり、他方、更新合意書に保証人が署名等せず、更新前契約についての保証契約が継続する場合には旧民法が適用されるので極度額の定めは不要ということが帰結されます。パズル的な思考が必要になるので注意が必要です。

基本契約、個別契約

企業間で売買のような取引が継続的になされる場合、基本契約をまず締結し、以後、この基本契約に基づき個別契約を締結するという形で取引がなされることが少なくありません。

それでは、2020年4月1日より前に売買基本契約書のような基本契約が締結され、2020年4月1日以降に基本契約に基づいて個別契約が締結された場合、旧民法・新民法はどのように適用されるのでしょうか。旧民法・新民法で瑕疵担保責任などの用語の意味が異なる可能性もあるので、この問題は意外と重要です。

更新合意と同様に考えて、2020年4月1日以降に個別契約を締結する場合、「当事者は新民法の適用を予測している」といえるから、新民法が適用されるという考えがまずありえます。

その一方で、個別契約はあくまで基本契約の上に成り立つものであるから、2020年4月1日以降の個別契約についても基本契約と同様、旧民法が適用されるという考えもありえます。

難問ですが、少なくとも個別契約の実質的な約定の大部分が基本契約で規律されているような場合には、基本契約との密接関連性から、「当事者は旧民法の適用を予測している」といえ、基本契約・個別契約とも旧民法が適用されると解するのが当事者の意思に合致すると考えられます。

ただし、その場合も、時効、意思表示の有効性といった強行規定に関しては、当事者の意思にかかわらず新民法が適用されると解されます。強行規定以外の任意規定には様々な条項がありますが、どこまで「旧民法の適用を予測している」もしくは「新民法の適用を予測している」といえるかは微妙な問題が生じる可能性があります。不安であれば、基本契約を新民法に準拠して締結し直すべきです。

また、基本契約には自動更新条項(当事者から反対の意思が表示されない限り契約は自動で更新されるという趣旨の条項)が規定されることが少なくありません。このような自動更新条項に基づく更新後の基本契約には旧民法・新民法のいずれが適用されるのでしょうか。積極的に更新合意した場合と違い、「更新に反対の意思を表示しなかった」ことをもって、「当事者は新民法の適用を予測している」とまでいえるかという問題ですが、難しい問題です。疑義を解消するため、2020年4月1日以降の更新の際に、基本契約を新民法に準拠して締結し直してくださいとアドバイスしたくなります。

契約日基準の例外 – 定型約款

契約日基準の原則の例外は、定型約款です。定型約款に基づく定型取引契約については、2020年4月1日より前に締結された契約であっても、2020年4月1日後は新民法が適用されます(附則33条1項)。旧民法には定型約款に関する規定が存しておらず、特に約款変更の取扱いが明確でないため、新民法を適用して明確化を図る趣旨です。

例えば、エステティックサロン事業者が作成した約款に基づいて2019年4月にエステサービスの契約をしたというケースで、契約時点の約款に事業者の都合で契約条件が変更できるとの変更条項があり、2020年4月1日より後に当該変更条項に基づいて事業者が契約者に不利に約款を変更したとします。この場合、エステサービスの契約は2020年4月1日より前に締結されていますが、新民法の定型約款に関する条項が適用されます。したがって、約款の変更は、相手方の一般の利益に適合する場合、または、変更が契約の目的に反せず、かつ、諸事情を考慮して合理性がある場合に限って許されます(新民法548条の4第1項)。

今回は、契約をめぐる事項に関して旧民法と新民法のどちらが適用されるかを検討しました。次回は時効などその他の改正項目について検討したいと思います。

弁護士 林 康司