改正民法(4月1日施行)はどこから適用されるか(2)

前回(⇒リンク)に引き続いて新民法がどこから適用されるかを検討します。前回は契約を中心に検討しましたが、今回は時効などのその他の改正項目について検討します。

時効についての改正点の概要

旧民法では、権利を行使できる時から10年で時効により消滅するのが原則でしたが、新民法では、①権利を行使できることを知った時(主観的起算点といいます)から5年間行使しないとき、または、②権利を行使できる時(客観的起算点といいます)から10年間行使しないときのいずれか早い時に時効により権利は消滅します。また、覚えきれないほどあった旧民法での短期の消滅時効や商事消滅時効が廃止され、他方で、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効の特例が定められました。

時効を止める制度も大きく変わりました。旧民法では、時効を止める制度には、時効の成立をいったん止める「停止」と時効期間をリセットする「中断」の二本立てでしたが、一般の方には分かりにくい用語でした(我々は慣れていますが、「中断」がリセットというのは確かに難解です)。しかも、停止と中断の振り分けの理由も必ずしも明確ではありませんでした。このため新民法では、より分かりやすくするため、「完成猶予」と「更新」とに再編成し、かつ、何が起きたら完成猶予となり、それ以上に何が起きたら更新となるかという形で分かりやすく規定され直しました。また、書面での協議合意による時効の完成猶予(新民法151条)といった重要な新制度も設けられました。

その他にも、期間経過で当然権利が消滅する制度である「除斥期間」を完成猶予や更新の対象となる時効へと改めるなど、時効制度は民法改正でかなり大きく変わったため、新旧どちらの民法が適用されるかは重要です。

消滅時効についての新民法の適用

2020年4月1日より前に、①債権が生じた場合、または、②その発生原因である法律行為がされた場合には、当該債権の消滅時効は旧民法により判断されます(附則10条1項、4項)。つまり、新民法の消滅時効の規定が適用されるのは、2020年4月1日以降に債権が発生し、かつ、その発生原因である法律行為も同日以降にされた場合です。契約についての契約日基準と同じく、行為(意思表示、契約)の時を基準とすることで当事者の予測可能性を確保しようとする趣旨です。

頭の体操的ですが、前の記事(⇒リンク)で触れた、2020年4月1日より前に売買基本契約が締結され、それ以降に個別契約が締結された場合に、この個別契約に基づく債権の消滅時効はどうなるのかといったことを考えてみるのは面白いです。個別契約に旧民法が適用されるとしても、附則10条1項の「原因である法律行為」も売買基本契約と考えるべきか、それとも個別契約と考えるべきかは、実務的にはさほど実益がないかもしれませんが興味深いです。

旧民法での時効の停止・中断については、停止・中断の事由が発生した時が基準となります(附則10条2項)。つまり、2020年4月1日より前に停止・中断の事由が発生していた場合は、旧民法に基づき停止・中断の効力が生じ、2020年4月1日以降は新民法に基づく完成猶予・更新の制度が適用されます。また、新たに設けられた書面での協議合意による時効の完成猶予は、2020年4月1日以降に書面合意がなされた場合にのみ適用されます(附則10条3項)。

例1.2019年6月に飲食店でツケで飲食をし、2020年5月に飲食店が支払いの催促を行い、その後、2020年8月に飲食店が再度催告したケース

2020年4月1日より前に債権が発生しているので、旧民法が適用され、飲食代金債権は1年間で消滅時効が完成します(旧民法174条4号)。飲食店は2020年6月の時効完成前に催促をしていますが、これは2020年4月1日以降なので、旧民法の時効中断(旧民法153条)ではなく、新民法により催告時から6か月時効の完成が猶予されます(新民法150条1項)。この猶予の間に再度催告しても完成猶予の効力はありません(同2項)。

不法行為責任の時効の経過措置は特殊ですので、注意が必要です。まず、旧民法724条後段の「不法行為の時から20年を経過したときも同様とする。」は裁判例上除斥期間とされていたのが新民法で消滅時効と改められました。これについては、2020年4月1日の時点で20年が経過していなければ新民法が適用されます(附則35条1項)。つまり、2000年4月以降の不法行為には新民法が適用され、完成猶予・更新の余地があります。

不法行為責任の通常の消滅時効については、被害者が損害及び加害者を知った時から3年という原則は新旧民法で変わりがありませんので(旧民法724条前段、新民法724条1号)、新旧いずれの民法が適用されるかで違いはありません。ただし、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効期間は3年間から5年間と変更されています(新民法724条の2)。この変更後の規定が適用されるのは、2020年4月1日の時点で3年の時効が完成していない場合です(附則35条2項)。つまり、2017年4月以降に被害者が不法行為による損害及び加害者を知った場合には新民法が適用され、時効期間が5年間に延長されます。

例2.2018年8月に起きた交通事故で人身損害と物的損害が発生したケース

事故時から損害と加害者が分かっていたとしても、2020年4月1日の時点で3年の時効期間は経過していませんので、人的損害の損害賠償請求権については新民法724条の2が適用され、事故から5年が経過する2023年8月に時効となります。他方、物的損害の損害賠償請求権は3年の原則のままですので2021年8月に時効となります。

例3.2018年4月に雇用契約を締結して勤務を開始した後、2020年5月に勤務先の安全管理体制の不備を原因として業務上の事故が発生し、負傷したケース

この場合、労働者の勤務先に対する損害賠償請求は、雇用契約上の安全配慮義務違反という債務不履行、もしくは不法行為のいずれによっても可能です。

まず、債務不履行責任の消滅時効から考えます。2020年4月1日後に発生した事故の時点で損害賠償請求権は発生します。しかし、請求権発生の原因である法律行為は雇用契約であり、雇用契約は2020年4月1日より前に締結されているので、旧民法が適用され、権利を行使することができる時から10年間、つまり、事故日から10年で消滅時効が完成します。新民法が適用される場合、主観的起算点によると5年で消滅時効となりますし(新民法166条1号)、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権については客観的起算点での時効期間は10年でなく20年となりますが(新民法167条)、いずれも適用されません。

次に不法行為責任の消滅時効について考えます。被害者が不法行為による損害及び加害者を知った時から3年という原則は新旧民法で違いがありませんが、本件は人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の事案ですので、附則35条2項に基づいて新民法724条の2が適用されます。したがって、時効期間は不法行為時、つまり事故の時から5年間となり、この例では2025年5月が時効完成の時となります。

その他の改正事項についての経過措置

その他の改正項目である、意思能力・行為能力、意思表示、代理、無効・取消などの経過措置についても、当事者が新旧いずれの法の適用を予測しているかという予測可能性が大きな基準であり、具体的には、契約日に代表される行為(意思表示、法律行為)の時点が基準になります。この観点から附則を眺めれば、新旧民法のいずれが適用されるかはそれほど難しくはないと思います。

以下では、幾つか注意点を挙げておきます。

中間利息の控除

例えば交通事故の事案で、被害者が死亡した場合や後遺障害を負った場合、将来の逸失利益(収入の減収分)の請求が可能です。この場合、将来の損害を現時点で賠償請求するにあたっては中間利息が控除されます。これについて新民法は法定利率に基づき計算するとの規定を置きましたが(新民法417条の2)、これ自体は実務を規定化したものであり、特に問題はありません。しかし、いかなる請求から、旧民法の法定利率である年5%から、新民法の法定利率である年3%に切り替わるかは大きな問題です。例えば被害者が平均的な収入のある40代男性の場合、中間利息に年5%でなく年3%が適用されると、賠償額は2,000万円以上高額になる可能性があるからです。

附則は、2020年4月1日より前に生じた損害賠償請求権については旧民法(年5%)が適用され、2020年4月1日以降に生じた損害賠償請求権については新民法(年3%)が適用されるとしています(附則17条2項)。損害賠償請求権の発生時が基準です。そして、被害者が死亡した場合には事故時ないし死亡時が基準となることで争いがありません。

ところが、被害者に後遺障害が残った事案では、事故時ではなく症状が固定した時を基準に逸失利益を算出するのが実務です。このため、2020年4月1日より前に事故が発生し、同日以降に後遺障害の症状が固定した事案において、加害者側が、損害賠償の一般理論に従って事故時を基準に旧民法に基づく中間利息を逸失利益から控除すべきと主張し、被害者側が、実務慣行に従って症状固定時を基準に新民法に基づく中間利息を逸失利益から控除すべきと主張する事態が考えられます。今後裁判で問題となっていくことが予測されます。

債権者代位権

債権者代位権(旧民法423条、新民法423条~423条の7)については、代位の対象である債権(債務者の第三者に対する債権)の発生が2020年4月1日より前か後かが基準となります(附則18条1項)。債務者と第三者の予測可能性を確保するためです。債権者代位権の制度は新民法で大きく改正されましたが、債務者の第三者に対する債権の成立時期で適用法が左右されるので、債権者としては注意が必要です。

詐害行為取消権

詐害行為取消権(旧民法424条、新民法424条~424条の5)については、取消の対象である詐害行為(債権者を害することを知ってした行為)が2020年4月1日より前か後になされたかが基準となります(附則19条)。債権者としては債権者代位権と同様の注意が必要となります。

債権譲渡

債権譲渡については、債権の譲渡の原因である法律行為、つまり、債権譲渡契約の日が基準となります(附則22条)。今回の改正で債権についての譲渡禁止特約の効力については大きく改正されましたが、債権譲渡が2020年4月1日より前か後のいずれになされるかで法的効果が大きく異なりますので、特に債権が2020年4月1日をまたがって二重譲渡された場合などでは注意が必要です。

以上のとおり、新民法がどこから適用されるかについて検討してみました。一般のユーザーの方から見て、新民法の附則はお世辞にも分かりやすいとは言えませんし、パズル的な思考が必要となることもありますので、具体的な事案で悩むところがある場合は弁護士などの専門家に確認をしていただければと思います。

弁護士 林 康司