電子契約、電子署名の効力・証明力、法的論点、導入方法 – 「押印」の法的意味(7/21,9/10追記)

* 7月17日に法務省等が公表したQ&A(電子署名法2条1項関係)について末尾等に加筆をしました(7/21)。
* 9月4日に法務省等が公表した追加のQ&A(電子署名法3条関係)について末尾に加筆をしました(9/10)。

電子契約、電子署名、押印の法的意味

新型コロナウイルス問題の影響もあり、電子契約や電子署名を導入するにはどうしたらよいかという相談が増えています。電子契約のメリットとしては、製本や押印等の作業の削減、印紙税の節約、社内の契約手続フローの効率化、コンプライアンスの徹底などが言われますが、こうした情報はインターネットやサービス提供会社の資料にたくさん記載されていると思いますので、この記事では触れません。今回の記事では、電子契約や電子署名のリスクやそれを踏まえた現実の導入について考えてみたいと思います。

よく言われているとおり、日本はハンコ文化の国ですが、契約書にハンコが押してあるそもそもの法的意味やインターネット時代にそれがどう変化してきているかをまず理解しないと、電子契約や電子署名をどう考えたらよいかはなかなか理解できません。ですので、契約書に押印がなされていることの法的意味からまず説明します。

契約書の「真正」の証明、インターネット時代の変化

契約書の日付の「バックデイト」に関する記事(⇒リンク)でも説明したとおり、日本では、契約の成立に書面の作成等、一定の方式の具備(要式性)は求められないのが原則です(民法522条2項)。つまり、当事者が契約内容を合意すれば、署名や押印はおろか、契約書がなくとも契約は有効に成立します。契約書は、合意が成立したことや合意の内容を証明するための証拠として作成されたものということになります。

そして、民事訴訟法228条1項は、証拠としての文書については、その成立が真正であることを証明しなければならないとしています。文書の成立の「真正」とは、作成名義人によって真実作成されたものであること、つまり、誰かが偽造したものでないことという意味です。当然といえば当然ですが、契約書を証拠とするには、その契約書が、作成名義人によって作成されたものであることを証明しなければいけません。

昔は、その証明の方法として、署名や押印は極めて重要な手段でした。なぜなら、昔は契約書の作成行為の記録は普通残っておらず(端的には契約書しか残っていない)、契約書の真正を直接証明するのが困難だったためです。しかし、インターネット時代になり、特に企業間では、電子メールでやりとりをしながら契約書を作成、確認することが多くなりました。この際、複数の関係者が送受信者に含まれていることも少なくありません。これらの電子メールのやりとりは、契約書の真正を証明する重要な証拠となります。この結果、署名や押印に頼らなくとも、契約書の真正を証明しやすくなりました。実際、体感的に言って、契約書の真正が争われる事案は近年かなり減りました。ただ、今後変わっていくかもしれませんが、「最終意思確認」としての押印の慣習上の重要性はまだあるのが現状です。

契約書への押印の法的な位置づけ

民事訴訟法は、文書の真正を直接証明することが難しいという前提で、私文書について、本人やその代理人の署名または押印があるときは、文書は真正に成立したものと推定するという規定を置いています(228条4項)。これにより、契約書の真正を直接証明できなくても、作成名義人の署名か押印がありさえすれば、文書は真正であると推定されることになります。民事訴訟法は、署名と押印を並べていますが、日本では署名は一般的でなく、署名を使った真正性推定はそれほど利用されません。その一方で、押印を使った真正性推定は多用されています。

これで一見解決したかのように思われますが、そうではありません。「押印」とは、文字どおり「印を押すこと」ですので、押印に基づく真正性推定を使うためには、「作成名義人が契約書に印を押したこと」を証明しなければいけません。しかし、よく考えるとこの証明は簡単ではありません。作成名義人が印を押す行為自体の記録は普通残っていないからです。このため、50年以上前の最高裁判例で、印影が作成名義人の印章によって作出されていれば、当該印影は本人の意思に基づいて顕出されたと事実上推定するというルールが確認されました。この推定と民事訴訟法228条4項の推定を合わせて「二段の推定」と呼びます。これによって、契約書上の印影が本人の印章によるものであることを証明しさえすれば、文書は真正であると推定されることになりました。

よく勘違いされますが、契約書に何らかの印影があればよいという訳ではありません。印影が作成名義人の印章(ちなみに、他の者と共有・共用している印章はだめという最高裁判例があります)によって作成されたものであることは証明が必要です。例えば、印影が、本人の登録された実印の印影と一致することや、本人が他の契約書や書類で使った印鑑の印影と一致するといったことを立証することが必要です。何でもよいから印が押してあれば大丈夫ということではありません。なお、押印の横には作成名義人(会社名・代表者名)の表示がなされていることになりますが、これについては特に限定はありませんので、タイプやゴム印による記名で問題ありません。

以上が契約書への押印の法的な意味です。これを前提として、次のページでは電子署名や電子契約について説明します。